以前こんな患者さんがいらっしゃいました。
「右」の「上」の歯を麻酔をして治療して、時間があったので「左」の「下」の歯の治療をしましょうかと言うと、
「もう麻酔してあるから追加で麻酔しなくても大丈夫ですよね?」
私たち歯医者の中では、右上に麻酔しても左下の歯に効くわけがないなんてのは常識なのですが、
私たちの常識と患者さんの考えにはこんなにもへだたりがあるんだなと痛感しました。
さて、では麻酔は一箇所に打つとどれぐらいの範囲や時間に効くんでしょうか?
麻酔の注射というのは歯の根っこの先端付近の歯ぐきなどに刺すんですが、
実際に効くのは、狙った歯の両隣りの歯ぐらいまでです。
2本隣も効くこともありますが、削るときに「効いてるかな?」と、ちょっと心配になります。
また、一本の歯の中でも、歯の中の神経には効いていても歯の周りの歯ぐきには効いていない、
なんてこともあります。
麻酔というのはすごく狭い範囲でしか効かないんです。
例外もあります。以上の話は浸潤麻酔という方法の場合の話。
伝達麻酔といって、神経のおおもとに効かせることで広範囲に効かせることができる方法もあります。
ただ一般的に歯医者で行うのは浸潤麻酔のほうです。
何本かまとめて治療する際は、何箇所かに分けて注射をするので、
何回かチクチクと痛いわけです。
ちなみにどれぐらいの時間で切れるかというご質問をよく受けますが、打った量にも場所にもその人の体質などにもよりますのでこれぐらいとピンポイントでは言い当てられません。
大体でいうと1時間から長いと6時間ぐらいといったところです。
麻酔の効いている間は、ほっぺたを噛んだり熱いのを感じづらくてやけどしたりしますのでご注意ください。
歯がすごく痛むと歯医者に行って、神経を取る。よくある流れです。
すごく痛む歯はかなり虫歯が進行して穴が開いたりしているので、
本人も気付いていることが多いです。
気付いているにも関わらず、痛みが出るまで歯医者に来なかった。
そういう方は歯医者に行くのが怖いか面倒くさいという方だと思います。
仕事が忙しいからといっても、休みの日はあるわけですし、
今の世の中24時間年中無休の歯科医院もあるわけなので、
通おうと思えば通えるわけです。
ですからなんらかのハードルが高くて歯医者に来れていないということになります。
そんな方は、神経を取ってある程度痛みがおさまると通院しなくなってしまうことがよくあります。
痛くなったから歯医者に来たわけで、その痛みがなくなれば通う理由がなくなるからです。
しかし、神経を取った後の通院中断は非常に危ない行為なのです。
その理由は2つあります。
1)根の先が膿(う)んでくる
神経を取ると、歯の中の神経の通っていた管は空洞になります。
そのまま放っておくと、その空洞の中で細菌が繁殖します。
その細菌は根っこの先端の外側、歯を支えている骨を溶かしてウミだめのようなものを作ります。
するとそこでウミがどばーっと出ると、中で圧力が高まって痛みが強く出ます。
その痛みは、歯医者に行っても1日ではおさまらないこともよくあります。
2)気付かないうちに虫歯が進行する
神経を取る治療をすると、根の先がうんだり周りの歯ぐきがはれたりすれば歯は痛みを出しますが、歯自体が虫歯になっても痛みを感じなくなります。
気付かないうちに虫歯が根っこの深いところまで進行すれば、その歯は抜かないといけなくなってしまいます。
上記の2点のようにならないように、
何回かかけて中の掃除をして無菌状態に近づけ、
痛みなどの問題がなくなったら中に詰め物をして、
歯のなくなった部分を補うために土台を作って型取りをして、
最後に銀歯を入れて終わり。
一般的な治療の流れでいうと、奥歯だと5~6回かかります。
その5~6回だけでもいいので、神経を取った後は、歯科医師が終わりというまでしっかり通ったほうが、ご自分のためになります。
なんとか時間を作って通うようにしてください。
特にご年配の方の虫歯治療をするときに、虫歯が深いので麻酔をして歯を削ろうと思い、
「麻酔をしますね」
というと、
「え、歯を抜くんですか?!」
と言われることがけっこうあります。
昔は虫歯になるとすぐに歯を抜いてしまっていた時代もあったようです。
また、虫歯を削るときは麻酔をすることが珍しく、痛みを我慢して治療したという経験がある方も多くいらっしゃいます。
そんな時代を生きてきて、実際に何本も歯を失ってしまったり、痛い思いをしてきた方にとっては、
「麻酔をする」=「抜歯」
というイメージがついてしまっているんでしょう。
また、
「虫歯治療は麻酔なしで我慢してやる」という経験から、
「麻酔をする」=「虫歯を削る治療ではない」
という考え方の流れがあるのでしょう。
歯科医師「麻酔をしますね」
患者さん「歯を抜くんですか?!」
という何気ないやり取りのように見えますが、
過去の悲しい歯科治療の傷跡を垣間見た瞬間でした。
麻酔はなるべく痛くなく行おうとしても、どうしても痛みが出てしまうこともあります。
一概に麻酔をするといっても、行う治療の内容によって打つ場所も違ってきます。
虫歯治療の場合、歯の中に通っている神経を麻痺させればよいため、
歯の周りの歯ぐきの1か所だけに打てば効いたりします。
歯周病治療の場合、歯の周りの歯ぐき全体に注射をするため、刺すたびにちくちくします。
さらに虫歯治療の麻酔と決定的に違うのは、歯ぐきが腫れているか腫れていないかということ。
虫歯治療の際、歯ぐきが炎症を起こしてなければ麻酔もあまり痛くありません。
ですが、歯周病治療の場合は「歯周病=歯ぐきが炎症を起こしている」なので、
炎症を起こしている歯ぐきに麻酔をしなければなりません。
この炎症を起こしているところに麻酔をするというのがけっこう痛いんです。
でも麻酔をしないと歯石を取るのが痛かったりするので、背に腹は代えられない。
「ごめんなさい…」と思いながら麻酔をしています。
麻酔が痛かった方、何卒ご容赦ください。。。
以前、読売新聞で以下のような記事が掲載されました。
「歯削る機器、滅菌せず再使用7割…院内感染懸念」
歯削る機器というのは、歯を削るドリル(正式にはバーといいます)を取り付けるための柄の部分で、タービンとかコントラとかストレートなどという種類があります。
これらは着脱式になっていて、外すこともできます。
これを滅菌するとはどういうことかというと、もちろん患者さんの口の中に入りますので、
その表面には細菌等が付着しますし、内部にも細菌が入り込みます。
ではそれをアルコールなどで拭きとればいいのかというとそうではなくて、
その機器の中にも水分が逆流して入り込んだりしている(逆流を防止するものもあります)ので、
中のほうまで滅菌しなければなりません。
当院ではオートクレーブという滅菌のための機械を使用して、患者さんごとに滅菌を行っております。
オートクレーブは高圧蒸気滅菌といって、熱い蒸気で細菌をやっつける方法で、一般的な歯科医院における滅菌の中心となっております。
削る機器以外のものも、オートクレーブ滅菌や薬液滅菌でしっかりと滅菌を行っておりますので、安心してご通院ください。
※ちなみに殺菌とか除菌とか消毒という言葉は完全に細菌を死滅させなくても使用できる言葉で、
完全に細菌を死滅できる場合に「滅菌」という言葉が使用されます。